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【18.05.10】 年金プア(中日新聞5月10日) 生活保護は恥の考えが根深い

偏見をなくす啓発が必要

年金の受給額が少なくて生活が苦しい年金プアの最後の頼みの綱は生活保護。しかし、「生活保護は恥」「生活保護だけは絶対嫌」と拒絶する人が多く、制度を利用できる人も申請を控えがちだ。なぜ生活保護の利用を恥と考えるのか。年金生活者の心理を考えてみた。
「自分も申請に踏み切るまでは生活保護は絶対嫌でした。軽蔑していた状況に自分がなるのですから。生き延びるために、恥を忍びました」
首都圏のアパートで一人暮らしをしている70代男性が率直に打ち明けた。生活保護の申請をすると親族に連絡が行くのが特に恥ずかしかったという。「警察に捕まった犯罪者が裸にされて検査を受けるようなものだと思った」
今も、近所づきあいは極力避け、生活保護を利用しているとは知られないように振る舞っている。ただ、病院で知られそうになることも。「役所で医療券をもらって病院の窓口に出せば治療費の自己負担はなくなるのですが、窓口の事務員が制度にうとくて自分が説明せざるを得ず、『だれかに聞かれているのじゃないか』と気が気でなかったんです」
男性は5年前から生活保護を受けている。26年前に妻と離婚し、子ども2人を男手一つで育てた。子育てと仕事との両立が難しく、時間は融通できても賃金が低い職を転々と変えざるを得なかった。生活は苦しく、国民年金の保険料を滞納することもしばしばだった。
現在の年金受給月額は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、企業年金を合わせても約5万7千円にすぎない。病気がちで働けず、援助してくれる親族もいないので、年金以外の収入はない。アパートの家賃は4万1千円。生活保護費を月に約5万1千円受給してようやく生活できる状態だ。男性は「余裕はありませんが、医療費の自己負担がないので安定した生活とは言えます」と話す。
以前は「恥」と考えていた生活保護の利用。それでも申請したのは、生活が破綻状態になったためだ。
申請前はあちこちで、警備員の仕事をしていたが、座骨神経痛が悪化してやめることに。生活費は借金で穴埋めしたが、返済に追われて地方税も滞納した。歯が痛くても治療費が払えず、我慢せざるを得なかった。「恥」の気持ちは捨てきれなかったが、背に腹は代えられず、生活困窮者の支援団体の助けを借り、生活保護を申請した。
今年2月の全国の生活保護利用世帯数は約164万。うち高齢者世帯は約53%を占める。その数は五年前に比べると約26%も増え=(グラフ参照 略)、高齢者の貧困が浮き彫りになっている。しかし、生活困窮者の支援者の間では「生活保護を利用できる人の大半が申請していない」との見方が強い。
全日本年金者組合東京都本部で年金相談室長を務める芝宮忠美さんは「高齢者の間で、生活保護が恥との意識はまったく薄れておらず、貧困にあえぐ低年金者を救済する際の厚い壁になっている」と指摘。「その背景には、生活保護の予算が増えないよう、行政が生活保護制度の利用を勧めていないことがある」と話す。
芝宮さんには苦い記憶がある。芝宮さんが相談に乗った年金プアの男性が6年前、団地の5階から飛び降り自殺したのだ。男性に生活保護の利用を勧めたが「お上の世話になりたくない」と拒絶。しかし、貧困から抜け出すすべは他になく、追い詰められてしまったようだ。男性は「年金は長年保険料を払ってもらうお金だが、生活保護は違う」などと話していたという。
芝宮さんは「生活保護は生存権を保障する極めて重要な制度。利用することは決して恥などではない。誤解や偏見をなくすよう行政やマスコミは啓発に努めてほしい」と訴える。(白井康彦)

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