【09.06.04】 本日の伊勢新聞の記事

実情に即した生活保護を 保護廃止後男性餓死の疑い

 四月二十六日、桑名市内の平屋で、やせ細った男性(53)の遺体が見つかった。遺体を検分した桑名署の調べでは、栄養失調の疑いがあり、男性はいわゆる餓死状態で発見された。桑名市によると、市は今年一月一日付で「就労」を理由に男性の生活保護を廃止。その後、男性から生活保護の再申請の電話相談を二月末ごろ受けていたが、面談には至らず、約二カ月後、桑名署の連絡で男性の死を知った。市保健福祉部(社会福祉事務所)は「市の対応、決定に不適切な点や問題があったとは判断していませんが、今回の結果を踏まえ、個々のケースに応じて対応すべきこと、民生委員や地域社会との連携強化など、できることは現場と協議して検討していきたい」(飯田寛福祉総務課長)と話す。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法)を絵に描いたもちとしないため、あらためて個々の実態に即した制度運用の点検が求められている。
(特報部長・竹本剛)
 ■発見
 男性の遺体が見つかった平屋は車一台がやっと通れる線路横の道路に面している。引き戸の曇りガラスは一部破損したままで、建物の状態が男性の困窮を物語っている。建物は小さな土間をはさんで二棟の平屋からなり、男性は奥の部屋の布団の上で発見された。隣に住む女性が、郵便物が何日も引き戸にはさまっていることに気付き、地元の交番に通報。駆け付けた署員が発見した。
 桑名署によると、発見時刻は四月二十六日午後八時十五分ごろ。死亡日は遺体の状況から、前日の二十五日と推定している。
 ■保護開始
 市や近所の人の話では、男性は、昨年二月に父親が死亡してから一人暮らし。アルバイト(深夜ビルの清掃)先の会社が昨年六月解散したため、仕事がなくなり、生活に困窮。「電話を借りたい」と訪ねてきた男性に地元の民生委員が、米を与えて、事情を聴き昨年八月二十一日、市に連絡。市は、男性と面談して事情を聴き、資産、収入や扶養義務者などの各種調査をし、同九月五日、八月二十一日付で、男性の生活保護を決定した。
 同決定に際しては、市は、就職と所有不動産(自宅と土地)の処分に男性が努めることを条件とした。支給額は月七万円から八万円ほど。毎月五日に市役所窓口で支給した。
 男性がやせていることから、市は保護決定時に、病院での検査の意思を確認したが、「悪いところはない」として、男性が断ったため、あえて「検診命令」は出さなかったという。
 ■保護廃止
 男性は昨年の十二月分まで、支給された現金を毎月、役所で受け取っていた。
 しかし、今年一月分の支給日である昨年十二月二十五日は役所に姿を見せなかった。
 年が改まっても受け取りに来ないため、担当ケースワーカーと上司の福祉総務課係長が今年一月二十一日、男性宅を訪問。
 一月分を受け取りに来ないことや、保護決定の条件である就職活動の報告がないことなどについて事情を聴いたという。
 ケースワーカーによると、やりとりの中で、男性は「働き始めたので、おたくらとは関係ない」「(就職活動の報告はしなくても)別によいと思っていた」などと話していたという。
 ケースワーカーは「急転直下だった。働いているということなので保護の必要がないと判断した」と話す。この面談を受け、市は一月一日付で保護廃止を決定。訪問後数日以内に保護廃止の決定文書を男性に通知した。男性が就いた仕事の内容や男性が実際働いていたかどうかについて市は特に確認はしていなかったという。
 ■最後の電話
 保護廃止の翌二月末ごろ、生活保護の再申請について男性から相談の電話があった。担当ケースワーカーは不在で、福祉総務課の職員が電話を受け、係長を通じて担当ケースワーカーに相談内容を口頭で伝えたという。男性の相談内容は「就職できなかった。生活保護は可能か相談したい」というもので、市側は「相談に来てください」と受け答えしたという。
 ただ市では、従来、生活保護に関する電話相談の内容は文書に記録しておらず、現時点では、電話を受け取った職員は特定できていない。
 男性の電話の件は、今年四月一日の担当ケースワーカーの交代時に「男性が相談に来るかもしれない」という形で、口頭で後任に引き継がれただけにとどまった。
 市民から生活保護申請の相談を受けることが多い星野公平桑名市議は「電話を受けて、市が男性宅を訪問するなど、何らかの対応が取れていればと悔やまれる。きめ細かな対応をしていれば、助けることができたかもしれない」と指摘。「生活保護廃止後、自立までのフォローや、ケースワーカーの不足や専門職化、資質向上の課題への対応や、民生委員との連携など、今回のことをきっかけに、生活保障と自立助長を目的とする生活保護の原点に立ち返って市の体制を見直す必要がある」と話す。
 市によると、市の生活保護世帯数は五百七十六(三月現在)。十年ほど前に比べ一・五倍余り。対応するケースワーカーは計六人。担当件数は一人九十前後から百二十世帯ほど(国指針の適正水準は八十世帯)という。
 飯田課長は「毎年ケースワーカー一名増を人事に要求していますが認められません。他の自治体も、同じような(人員不足の)状況だと思いますが」と話す。
 星野氏によると、市は現在、増員を検討し始めたという。運用改善の動きは始まったばかりだ。

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